USスチール買収の裏話

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市場は買収成功を見込んでいなかった

日本製鉄によるUSスチールの買収が頓挫しています。これについて、今日は解説いたしましょう。

図表1はUSスチールの株価です。買収の発表日2023年12月18日、株価が前日の36ドル台から60ドル弱まで大幅上昇しています。買収の場合、通常5割以上のプレミアムがつくので、通例に従った株価上昇だったと考えられます。

2024年、ニューヨークダウ平均株価は大幅上昇し、45,000ドルの史上最高値をつけました。本来であれば、USスチールの株価も他の主力銘柄と同じように、上昇基調をたどるのが通例です。

ところが、買収発表当日の株価が最高値であり、その後株価は続落をしてしまいました。現在では30ドル程度にまで落ちています。その理由は、「買収が不成立に終わってしまうか」、または、「買収価格が相当低いものになってしまうか」のどちらかになると、市場が考えたからです。

理由は業績にあります。直近の業績を見ると、USスチールがボロ会社であることがよくわかります。2024年7~9月期のEPS(1株当たり純利益)は48セントでした。前年同期比が1.20ドルですので、大幅な減益です。

また2024年の累積業績(9か月間)を見ても、1.88ドルであり、前年同期の3.86ドルに比べて、大幅な減益となっています。

USスチールの業績(EPS,ドル)

直近3か月決算前年同期
0.481.20
2024年9か月累積前年同期
1.883.86

米国経済が好調な中で、USスチールはこの程度の業績しか残すことができない会社です。正確に言うと、この会社はどこかに買収されて、自分の身を救う以外に手がなかったのです。そんな時、日本製鉄が現れました。従業員の解雇もしないと約束しました。USスチールとしては、まさに「渡りに船」だったのでしょう。

次に、日本製鉄はどのように市場から評価されたのかを見ていきましょう。図表2です。これは買収発表当日の株価を1としたものです。日本製鉄の株価は、2024年3月まで日経平均の上昇に引っ張られて、大きく上がったものの、その後、株価は続落に転じています。これは、「USスチールはお荷物会社であり、買収すると、当社は大変な事態になる」という投資家の警戒感が現れたものと考えられます。

話をまとめると、日本製鉄によるUSスチールの買収は市場からは全く評価されていなかったということです。

株価の動きを見るだけで、私達はこれだけのことを理解することができます。皆さんも、株価を見る習慣を身につけましょう。

コメント

コメント一覧 (8件)

  • 10年ほど前の話ですが、昭和シェル石油が買収されるニュースを見て、「買収される会社の株価は当日に急騰し、買収する会社は下落する」と云う法則に習って、試しに買ってみたら、買収計画が頓挫してしまい、15%以上の含み損を抱えたまま損切りした事があります。

    「しっかり分析もせずに気楽に手を出すと失敗する」と云う苦い教訓になり、それ以降は「金投資」だけになっていました。

    これから林先生の投資講座で「株式投資」についても学ぶので、この機会に「業績」など、しっかり分析して見極める力を身に付けたいと思います。

    • 自分の失敗を正確に記憶していることはとても大事なことです。
      こうした苦い経験を積み重ねて、あなたはきっと立派な投資家になっていくのではないかと思いました。

  • 私はUSスチールの立場からすると渡りに船と思っているのですが、バイデンさんやトランプさんがなぜ反対するのかなと思っています。市場は日本製鉄にとって買収は好ましくないと考えているということですね。破談になれば日本製鉄の株価は上がるかもしれないということでしょうか?

    • バイデンやトランプは、政治家として権力を行使したいということではないかと思います。
      破談になれば、長期的には日本製鉄の株価は上がっていくだろうと思っています。
      ただし、これは買収があった場合との比較であって、
      現実的にこの会社が「買い」の銘柄になるという意味ではありません。

  • バイデンさんやトランプさんは国家の基幹産業を他国に売り渡すことはできないといっているとか、労働組合が買収を反対したとかいう話も聞こえてくるのですが、労働組合はなぜ反対なのでしょうか。ボロ会社ではそのうち潰れて失業するのでは?それより救ってくれる会社かある方が良いと思うのですが、。どうなのでしょう

    • 全米の鉄鋼労働組合がこの買収に反対している理由は
      「買収が成立するとUSスチールの生産性が上がるのではないか」という恐れからだと思います。
      生産性が上がれば、その会社で働く人たちは、今まで以上に仕事をしなければなりません。
      また、他社の人たちは、競争激化で仕事量が増えることになります。
      労働者は、できるだけ働きたくないので現状維持が一番好きなのです。

  • 林先生ご教示ありがとうございます。働くのが嫌な気持ちもわからないではありませんが、会社が潰れてしまったら職を失うのに、。

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