自分のために仕事をする人たちの固まり
「会社の寿命は30年」という教えがあります。企業は大きくなると衰退の道を歩むようになります。今日はその一端がわかるお話しをしましょう。
2024年11月、家具大手のニトリはドラム式洗濯機・乾燥機の発売を発表しました。価格は99,900円です。これは、大手のパナソニック、日立の中心価格帯である22万円に比べ、かなり割安です。ニトリがどうしてここまで大幅な安値の商品を提供できるのか、この話から始めましょう。
10万円を切るドラム式洗濯機・乾燥機の販売しているのはニトリだけではありません。アイリスオーヤマも同様です。価格.comによると、99,800円となっていました。
これらの商品に共通することは、Wi-Fiに繋がる機能を取りやめたり、液晶ディスプレイを取りやめたりして、本体の性能にどうしても必要と思えないものをコストカットしていることが一つの理由です。しかし、それは理由の中では大きなものではありません。
この両社に共通しているのは、創業者が現役の会長として、製品開発、コストカットに指示を出しているところです。製品開発において、両社が最初に行うのは価格の決定です。具体的に言うと、商品の機能・内容を話し合う前に、まず価格を決めます。
創業者の命令は絶対ですから、何としても達成しなくてはなりません。そのために、担当者は、どうすれば安い部材が調達できるか、より単純な設計や製造方法はないか、店舗までの輸送や店舗での販売コストを削減できないのか、といったことを必死に考え抜くことになります。
割安航空と割高航空の差はわかりやすい
もうひとつ、大企業とスタートアップ企業の差が明確にわかる別の例を挙げましょう。エアラインです。航空業界には割安航空(LCC:ロー・コスト・キャリア、スタートアップ企業)と割高航空(フラグ・キャリア、大企業)とがあります。価格が大きく違います。実例が下の表です。
格安航空と割高航空の差 | ||||
キャセイパシフィック | 価格 | 94,755 | ||
羽田発 | 16:00 | 香港着 | 20:15 | |
香港発 | 16:25 | 羽田着 | 21:15 | |
香港エクスプレス | 価格 | 35,425 | ||
羽田発 | 23:55 | 香港着 | 4:15 | |
香港発 | 19:50 | 羽田着 | 0:40 | |
差額 | 59,330 | |||
内容の違い | 食事の有無 | |||
機内映画の有無 | ||||
座席の質はほぼ同じ |
注:往路:2025年1月14日羽田発・復路:17日香港発
羽田・香港往復の場合、キャセイパシフィックでは94,755円、香港エクスプレスでは35,425円でした。価格差は59,330円で、価格差の方が香港エクスプレスの価格そのものより大きいです。
割安航空が割安価格を提供できる理由は、出発時間の違い、食事や機内映画の有無だけではありません。
「低コストを実現する」という体質が社内にあるかないかが最大の違いになっています。大手フラグシップ・キャリアは「値段を安くしよう」という発想が会社のDNAの中にないと言えます。
キャセイパシフィックは香港を拠点としたエアラインで、香港では大きなシェアを築いていますが、海外に出れば数多くのエアラインの中の1社に過ぎません。つまり、乗客はそれほど多くありません。にもかかわらず、バンコク、シンガポールといった香港以外の空港においても、独自のビジネス・ラウンジがあります。
高級感を演出する独自ラウンジは、多くのエアラインが共同ラウンジを使用しているのと対照的に膨大な費用がかかっています。
しかも、セキュリティチェックが馬鹿々々しいほど念入りです。飛行機乗るには搭乗時間の数十分前に、ゲート前の椅子に座って、搭乗を待つことになります。バンコクの場合、その待合室入口で、パスポートと乗車券のチェックを受けます。入り口から少し歩いていくと、ビジネスクラスとエコノミークラスは別のところに座るので、もう一度搭乗券を見せることになります。
いよいよ、搭乗が開始されると列に並びます。その際に、もう1回パスポートと搭乗券のチェックがあります。それが終わると、自動のゲートをくぐって飛行機へと向かいます。ここでは、搭乗券を機械にかざして、カメラに顔を向けると、本人確認ができ、先に進みます。
そこから、飛行機まで通路を歩いていきます。飛行機に入る段階で、もう1回搭乗券を見せるように要求されます。
ここまでの話を聞いて、理解力のある人なら、「機械による搭乗券と顔のチェックだけで、他はいらないのではないか」と思うでしょう。
こうした無駄をやめれば、相当なコストダウンになります。また、機内での食事の提供もやめれば、コストダウンがさらに進みます。
しかし、それはできません。なぜか。セキュリティ部門のトップ、食事部門のトップが反対するからです。自分たちの権限を減らすことは、社内での力が弱まることを意味します。
反対するのは各部門のトップだけではありません。例えば、飲み物の種類を絞ることもできません。飲み物担当のトップが自分の仕事を守ろうとするからです。こうして、大会社機構の従業員にとっては、会社全体の収益が上がることよりも、自分を守ることが優先します。
このようにして、フラグシップ・キャリアはいつまでたっても割高を続けます。既存の大企業が大幅なコストカットやビジネス上の変革ができない理由は、このような社員の保身がはびこっているからだといえるでしょう。
コメント
コメント一覧 (4件)
私の会社は駐車場の運営なんですが社員の平均年齢が55歳です、頑固なイメージが強く改革なんか進まないです。若い子が入ってもすぐやめてしまいます!
社会全体の労働者年齢が高いなーと肌で感じます。
日本人の平均年齢は50歳なので、
これが社会の硬直化を起こしていることは確かです。
若い人の多いタイのほうが、活気があるのを感じています
私が働いている会社は、以前ある電子デバイス関連の事業で大成功を収めました。しかし次世代のデバイスが台頭してきているにも関わらず、幹部は現状のまま投資を続行し、結果として外資に会社を買取られ主力工場を手放す羽目になりました。当時、まともな事を提案する人達の多くは関係ない別の部門へ異動になり、辞めていく人もいました。今は車載関連など利益率の高いものをベトナムで生産しています。私は出張べースでそこで仕事してますが、楽しくやってます。しかし近い将来、今のやり方では同じようにベトナムに進出している中国に負けていくと思います。定年間近な私は良いとしても若い日本人のエンジニアの将来が心配です。
日本企業の最大の強みは、現場の人たちが頑張っており、
その力が他国に比べて圧倒的に高いことです。
これに対して日本企業の最大の弱みは
それをまとめていくマネージメントの力です。
米国や中国のマネージメントは日本に比べてかなり優秀だというのが僕の印象です。