経済教室

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日本の債務超過696兆円

政府の過小評価は見え見え

財務省は2023年度において、「政府が696兆円の債務超過だった」と発表いたしました。今日はこれについて解説いたしましょう。

投資部の皆さんの中には「債務超過」という意味がつかめない方もいらっしゃると思います。今日はそのあたりからやさしく説明します。今後、株価が下落し始めると、「国家の債務超過」という言葉がメディアによく現れるようになるでしょうから、今のうちから学んでおきましょう。

図表1は、これまでの債務超過の推移です。緑色の線です。これによると、平成15年度(2003年度)は、245.2兆円の債務超過でしたが、現在では695.7兆円に拡大しています。

図表1

なお、政府は債務超過という言葉を使わずに、債務・負債差額という言葉を使っています。「既存品の焼き直し」では聞こえが悪いので、「バージョンアップ」ということがあります。この種の言い回しだと思って下さい。

図表1の中で、緑線とほぼ同じように、動いてきたのが赤線です。赤字国債です。財務省は特例国債と呼んでいます。金額がほぼ同じになっています。今日僕がお伝えしたいのは、これはおそらく、嘘だろうということです。本来の債務務超過額はもっと大きいという意味です。

皆さんは図表1の赤字国債残高が730兆円になっているのを何か不思議に感じませんでしたか?「日本の財政赤字の額は、1100兆円を超えている」とメディアが伝えているからです。「なぜ730兆円にとどまっているのだろう」という疑問が湧いても不思議ではありません。ここが今日のテーマです。

2つある国債:赤字国債と建設国債

話を先に進める前に、国家の借金の実態をつかんでおきましょう。図表2にあるように、国の借金(国債)には主に2種類あります。建設国債と赤字国債です。

図表2

建設国債301兆円、赤字国債730兆円あり、その他を含めて1164兆円の公債残高が存在しています。建設国債と赤字国債は資金の使用目的が異なります。

建設国債は資産として残るものに使います。例えば、道路や港、橋、鉄道学校、病院などの建設に用います。これに対して、赤字国債は残らないもの(例:人件費)などに使います。

債務超過の意味

債務超過とはどういう意味なのか?ここで、図表3に基本的な会計の仕組みをご説明しましょう。簿記の大原則として、会社や政府には資産と負債とがあります。

図表3

一般的には、資産の金額が負債の金額より大きくなっています。資産とは、会社にある現金や在庫、コンピュータなどの機材、建物、土地といったものです。一方、負債は、お客様からの預かり金、銀行からの借金、証券市場で発行した債券などがあります。

通常は資産の方が負債より大きく、この差額を(自己)資本と呼びます。図表3の上の図になります。自己資本(特に一株当たりの資本金、EPS)を大きくしていく会社の株価がよく上がっていくということは、皆さんは経験の中で感じていることでしょう。

これに対して、倒産会社や国家の場合が下の図です。負債の方が大きく、資本の方が小さくなっています。この差額が債務超過と呼ばれる金額です。当然ながら、資本はマイナスになっています。こうした状態になると、普通の会社は破綻してしまいます。

しかし、例外的に破綻しない場合があります。それは、得意先に対して、必要なお金の支払いを続けることができ、銀行への借金や証券市場で発行した債券に関わる利子を払い続けることができる場合です。

「そんなことができるわけないよ。銀行口座にお金がなくなって困っているのだから」と思うでしょう。その通りです。普通はありえません。

例外は国家です。国家はお金が払えなくなる状態になると国債を発行して、お金を作り出してしまう(お札を刷り続ける)ので、破綻から逃れることができています。

債務超過額は過小評価されている

皆さんは「債務超過額とは、負債から資産を引いた額」ということが理解できたと思います。

問題は、「資産が額面通りに存在するのか」という点にあります。図表4にあるように、建設国債を用いて建設した道路などは、投入した金額そのものが資産計上されます。

図表4

経理上はそうするしか方法がないのかもしれません。しかし、投入金額の中には政治家などへの賄賂(わいろ)も含まれているはずです。また、道路や港は人に売ることのできない資産ですから、市場価値という概念がそもそもありません。つまり、計上された金額の価値が本当にあるかどうかはわからないということです。

一般的な話をするなら、買い手の現れないものは、価格をかなり引き下げて買い手を探すことになります。

このように考えていくと、日本の債務超過額はもっと大きいと考えておくべきです。

コメント

コメント一覧 (15件)

  • お疲れ様です。国を会社に見立てて貸借対照表でのご説明大変面白く読ませていただきました。私は赤字国債の大きな額に注目したのですが、公務員や政治家の定数削減などでもっと少なくする事は可能だと思います。
    公務員て実際そんなにリソース必要ですかね。役所行くとつくづく思います。

    • 割安な航空会社は、従来の航空会社に比べて
      10分の1程度の人数でまわしています。
      こうしたことは、やろうと思えばできるのですが
      きっと、公務員たちはそれをしないでしょう。

  •  お話を聞いて、政府や省庁が故意に数字操作をし、私たちを欺いていると言う印象を受けました。また、関係機関から公表された数字を鵜呑みにせず、難しいかもしれませんが、確かな情報に基づく数字を押さえとくことも重要であると感じました。
     国の舵取りをしている人たちは、公平で透明性の高い社会を創るなんて言っていますが、都合の悪い事実は隠すのですね。かつて大手企業も粉飾決算をして倒産したり、経営危機に陥ったりしました。私の記憶に間違えなければ、財務省(当時は大蔵省)は自分達の力を見せつけるために、コール市場で資金ショートはありましたが債務超過していなかった拓殖銀行を取り潰してしましました。北海道と言う特殊性を考えれば、助ける意思があったら助けられたと思います。
     リーマンショックの時も、まともな債権の中に、不良債権を忍ばせ売っていたことにより、信用不安となり、株価が世界的な規模で大暴落したとの解説を見たことがあります。
     私たちが知らないところで、事が行われ気づいた時には、社会的、経済的な天変地異と思えるようなことが突如として現れるような気がします。

    • あなたが気づいたことは、とても大事なことです。
      そうした気づきによって自分のことは自分で守ろうという気構えができるからです。
      これからの大きな不況に耐えうるだけの力がついてくるでしょう。

  • 毎回、解りやすい解説ありがとうございます。大変勉強になります。
    解説のある通り、建設費の何割が実際のハコモノに使われているかを想像すると、その比率はかなり低い気がします。

    • 建設費の何割かは政治家の懐に入っているでしょうから、
      本当の数字はもっと低いはずだということになります。

  • 賄賂も含まれる!同感です。
    役人の人生しか知らない役人は、前例踏襲、明日出来る仕事は今日はしない、先輩のする通りしかしない傾向にあります.
    トランプ2.0の革命の大津波は早晩日本に到来します。小さな政府へ、腐った役人、政治屋は淘汰されるべく、国民は主権を行使して、政府の欺瞞、国民生活を犠牲に肥大化する一部の悪徳役人組織を駆逐せねばと思います。
    アブダビ投資庁で後進を指導された林則行先生の新たな弟子たちは、日本の繁栄にとって無視できない存在にならねばと感じています。

    • あなたのようなかたが増えれば、日本の経済や社会は
      うんと良くなっていくのではないかと思い、嬉しく思いました。

  • トランプ大統領がイ−ロンマスクを使って、構造改革と公務員の大幅削減をはじめましたが、日本にもトランプのような首相が現れないと日本沈没になりかねませんね!

    • その通りですね。日本にも立派な政治家が現れることを期待してやみません。

  • 林先生鋭い所を指摘されましたね。
    所謂、国政府、特に財務省は国民に隠し事とか実態について全く報告していません。
    日経などは財務省からの記事をそのまま書いているに過ぎないそうです。
    財務省は税金を取ることしか考えていなく、国民無視のやり方には国会議員も相当学習して欲しいものです。私は国民一人一人が平和主義に戯れている時代ではないと常々感じております。その証拠に日本を取り巻く社会環境、つまり社会主義国家が絶えず狙って居ることです。 
    話を財務省に戻しますが、元財務官僚は資産の中にはまだ財務省の機関、所謂子会社などに貸し付額が多く、明確な決算報告書も出していないと聞きます。
    国全体の財政収支はG7の中でも健全だとも言っておられます。
    では何故、財務省が色々と隠ぺいしたがるか、それは簡単です。
    つまり彼らの将来行く天下り先を温存させておくという事なのです。
    余りにも国民を無視した手法ですよね。先日亡くなった森永卓郎の著書「ザイム真理教」にも書かれていたと思います。
    私ごとで恐縮ですが、72歳にもなってもまだ知らない事ばかりです。
    もっと世の中の矛盾を知識として解き放せたらと考えています。
    そして正当な投資、間違いのない投資を先生の下で勉強させていただきたいと願っております。

    • 世の中の矛盾や政府による不正がこれからますます多くなっていくでしょう。
      私たち庶民はそれにやられているばかりの存在なのですが、
      問題の本質を見極めることができれば多くの人より賢く立ち回ることができます。

      あなたも身近なところに不正や矛盾がありませんか?
      あったらぜひこちらに投稿してください。
      みんなで身近なところから学びましょう。

  • マスゴミは、USAIDや財務省前のデモの報道をしない。中居問題の対応、報道対象にされない候補者がいるなど…状態化している偏向報道にはうんざりしています。正しい情報入手は、投資部林先生の気付きにおけるコミュニティかと思います。投資で勝つだけではない大きな価値があると思います。

  • 財務省(罪務省)や各省庁官僚の天下り先など(真面目で優秀な官僚もいるでしょうが)に税金泥棒(失礼)の多過ぎ議員とその報酬に手当
    何が財政赤字だと思っておりましたが
    質問です日本は米国債保有No.1、そのほか他国の国債も保有してるのは(ぶっちゃけ単純に)換金出来ないんですか

    • 日本は米国債の売却を行うことができません。
      そればかりか今後、米国債価格が下落するにするにつれて、
      もっと購入せよとの支持が米国からやってくるでしょう。
      もちろん、その新規購入分も売却することはできません。

      すべて捨て金になります。

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