早過ぎた妥結:国際ルールを知らない
7月23日に日米関税交渉が妥結しました。
日本側にとって不利な決定でした。最大の問題は「妥結が早過ぎた」ことです。
今日はこの件についてお話します。
7月23日の発表によれば、日本が負担をする関税率が15%になりました。
米国大統領は日本に7月7日に宛てた書簡の中で、25%にすると言っていました。
これに対して石破総理は「15%で収まった」と勝利を宣言している様子でした。
しかし、国際的な常識からすれば、この妥結は敗北です。その理由は15%という数字にはありません。
早過ぎる合意だったのです。
25%という数字は、4月初旬に停止された関税は10%に15%を上乗せしたものです。この15%のうち、3分の1を日本側が呑み込み、残る3分2(10%)を米国側が譲歩する形です。
相手方の譲歩分がかなり大きいように見えます。日本側の勝利に思われます。
しかし、こうした発想は国際的なビジネス慣習の中では、全くの誤りにすぎません。どういうことか。
国際ビジネスでは、最初の言い値がべらぼうに高いのです。わかりやすく言えば、「ふっかけ」で始まります。トランプ大統領がよく口にする「ディール」の中核を成す取引手法です。
国際的なディールにおいて、吹っ掛けの高さに騙されて、つい高い金額で妥結してしまうのです。こうしたことは、海外では街の小さな商店主でも知っています。
好例はアラビアにおけるペルシャ絨毯(じゅうたん)販売店です。店に入ると、「さあ買わないか、買わないか」と言わんばかりに、ペルシャ絨毯をどんどん広げながら説明します。おそらく30枚以上は広げるでしょう。店中が広げた絨毯でいっぱいになります。気に入ったものが1枚あれば、そこから価格交渉が始まります。
向こうの提示価格が50万円で、交渉成立価格が25万円だとしましょう。日本人の多くは、「半額に値切った。やった!」と言って喜んでいるようです。この程度では交渉とは言えません。
ぼくが最初にスタートする価格は、相手の提示額の10分の1です。つまり、相手が「50万円だ」と言えば、ぼくの言い値は5万円です。
そのときの店主の驚いた顔といったらありません。10分の1では取引が成立するはずは全くないのです。それでも、店主は「そんな安値なら帰ってくれ」とは言いません。脈があるのです。交渉を繰り返していくうちに、向こうがどんどん値段を下げていきます。こちらは1万円ずつしか上げません。
そして最後に成立したのが、12万円でした。つまり、最初に相手が提示した価格の24%の価格です。最後に店主は、
You Poor, Ⅰ Poor Ok?
(和訳:お前も貧乏、俺も貧乏、これで決めてくれ)
と言いました。破れたTシャツを着ていたぼくの身なりが功を奏したのでしょう。
ここで大事なことは、最初の段階ではどこが妥協点か全くわからないことです。そのため、時間を掛けながら相手の出方を見ます。
絨毯を見る時間よりも、交渉の方に時間がかかるということです。日本の関税交渉を見るにつけて、最大の問題点は時間をかけなかったことにあることだと考えました。
いつまで時間をかけたらいいのか?
他国が妥結を始めた頃で十分です。
「日本が3分1で妥結した。しかも早い段階で妥結した」ということが世界中に伝わりました。これにより、他国は、「最低でも3分の1の譲歩で妥結できる」ということを学びました。日本が米国の手の内を教えてやったからです。
3分の2を譲歩したトランプ大統領が、日米関税率妥結発表会見において大きな笑顔を振りまいたことから、他国は、「3分の1譲歩ならば、相手方が喜ぶレベルだ」とわかりました。早期妥結となると言われていたEUとインドが依然として妥結していなのは、米国の本音を見たかったのだと思います。
石破総理はまじめで、日本のことをよく考える人ですが、国際ビジネスには強くないというのがぼくの印象です。
コメント
コメント一覧 (1件)
・・・いつまで経っても素人なんですね。日本の外交は。(◞‸◟)
・・・高橋是清さんあたりなら上手くやったかな?(^◇^;)